鉄、カフェイン、銃のこと

 

大ベストセラーみたいなタイトルにしてみたけど銃は出てこないし、そもそも読んでない。

 

この二週間ほど、一縷の望みをかけているものがある。
鉄剤である。
だるいよ〜、朝起きれないよ〜、疲れるよ〜、といった諸々がこれで解決するのではないかと祈っている。
もちろんこれだけでは解決しないとわかっているのだが、とりあえず祈りながら飲んでいる。全然眠いし疲れるのであまり関係ないかもしれない。でも、いつか血がみなぎって常に元気になれる日が来るかもしれない、と祈っている。

鉄剤を飲むきっかけになったのは職場の健康診断である。貧血の判定が出て、「まぁそうかもね」と読むだけ読んで放置していたら、人事に呼ばれて「病院にかかりなさい」と指示された。あらっ、そんなに深刻なのかしら、と焦って人事の人の机に行ったら、同じ書類がドドドと積まれていて、要再検査の人が大量発生していることがわかりホッとした。法律が変わったのか、今年から結果の思わしくない社員をきっちりフォローアップすることになったらしい。ありがたいけど、業務が増えて不憫なのは人事である。

はぁそうですかそうですか、と休みの日に大人しく病院に行ったら「内科じゃなくて婦人科かもしれません」と言われ、そうですかそうですかとそのまま婦人科へ病院のハシゴをした。久しぶりに例の内診台に乗ってお腹の中を見た。なるべくあの台に乗らずに残りの人生を送りたいなと思っていたけれど、そうもいかないものなのだな。
婦人科では結局なにも問題はなく、採血した血の中身はやはり鉄不足で、数値としてはフェリチンが測れないくらいなかった。よって鉄剤が処方された。

医者からは、鉄剤を飲むと便が必ず黒くなるので驚かないで、ということと、飲んだあと吐き気がするかもしれません、ということを言われた。そんなこと言われたら絶対吐き気がする気がしちゃうじゃん、逆プラセボ!と思ったが実際はそこまででもなかった。便はびっくりするほど黒くなった。驚かないでと言われても素直に驚いた。

昔々に読んだ内田春菊のマンガで、鉄剤とコーヒーの相性が悪いから云々、というのを読んだ気がして、調べたら、「タンニンを含む飲み物と同時に摂取すると鉄剤の効き目が下がります」とのことだった。
タンニンか。タンニンと言えばワインだが、薬を飲ませようとする人はまさかこちらが酒を飲むとは思うまい。それよりなによりタンニンはコーヒーだけでなくほぼすべてのお茶に含まれているだろう。
わたしは朝起きたら大抵コーヒーを飲み、会社に出勤したら紅茶を飲んで日中を過ごす。ちょっと調子が悪いときはほうじ茶を飲む。最近は暑いので水出し麦茶を作ってゴボゴボ飲んでいた。…この辺の水分がすべて効き目を下げてしまうのだという。困った。

初めの一週間は寝ても覚めても水を飲んだ。あまりに暑いので水でも大きく不満はなかった。水道から出したらすぐ飲めるし、冷蔵庫に入れておけば一晩置かずとも冷たく美味しくなって助かる。お金もあんまりかからないし、家の中のお茶っ葉コーナーがシーンとはしても、すぐ腐るものでもないから消費を焦る必要もない。これは心身ともにヘルシーな活動だ!水!W…Water!
といった具合に水のポテンシャルに目が開かれていたある日の夕方、どうしても外で仕事がしたくてドトールに入った。
ごく自然にアイスコーヒーを注文し、ごく自然に飲んで、驚いた。
濃いのだ。あまりの刺激に胃がびっくりしている。
慌てて牛乳を追加で頼んで、勝手に割って飲んだ。水分が予定の2倍になった。
お腹がポチャポチャいうなあ…と思いながらの帰り道、なぜか珍しくキレイになりたい気持ちが湧き出てきて、帰ってすぐちゃんとクレンジングをしてから石鹸で洗顔もして顔のパックをして美顔器を使った。そしてストレッチをして腹筋とスクワットもした。Duolingoもやった。
なんだろうこれは、元気すぎて明日死ぬのかな、といぶかしんだが、すぐに気が付いた。さっきのコーヒーのせいではないか?タンニンではなく、カフェインだ。
たった数日カフェインを休んでいただけで、どうしよう、こんなにてきめんに影響するものだったのか。今までは寝る前にコーヒーを飲んでもすぐに寝られるくらいだったのに、なんと恐ろしいんだ。
この日はそのままテンションが下がらず、朝まで寝付けなかった。5時から1時間だけ寝て、起きて、高いテンションのまま朝ごはんとしてカップ焼きそばを食べてしまった。そして鉄剤を飲んだ。

健康を目指すならまずカップ焼きそばを食べるのをやめるべきだとわかっている。カフェインをどうする、タンニンをどうするではない。
と言いながらとりあえず鉄剤を飲んで、水を飲んでいる。鉄剤は真っ赤で血によく効きそうだ。


f:id:l11alcilco:20230804210954j:image