鶴見のこと

 

鶴見という駅があるのは知っていたが、一度も行ったことがなかった。なにがあるとも知らず興味もなかった。ところがこの数年、みんな大好き大人気・武塙麻衣子女史の日記本を読むにつけ、ものすごく魅力的な土地に思えるようになってきた。特に「たかぎ山」という店が、楽しそうで美味しそう。ついでに前から噂に聞いていた大盛りの店「ばーく」も行ってみたい。そんな思いはありながら、名古屋に住んでいるとなかなか遠征もしづらくどうしたものかと思っていたが、おかげさまで東京で無職として活躍しているこの数週間、いつでも行きゃあいいんだわ、と気付いて出かけることにした。

 

鶴見はS氏の職場が近いので、「たかぎ山」って知ってる?と訊いていたのだが、行ったこともなくどこだか知らないと言う。「ばーく」はしょっちゅう行っているらしいのだが、そんな美味しいところがあるのかなあ、同僚の人たちも知らないみたいよ、という姿勢だ。日記本界隈(あるのか?)では超名店なのに…?と訝しんで、実際に行ってみると「ばーく」と「たかぎ山」は目と鼻の先というくらいに近いから驚いた。大盛りを食べたい人と大衆酒場で飲みたい人との間には見えない川があるのだろうか。わたしはどちらも関心があるのだが。

まずランチでばーくに行った。大変かわいい店構え。満席で3分くらい待つが、すぐ通してくれた。
前々からインスタグラムなどでメニューを予習しておいたのだが、心が決まっていない。極厚のハムカツがおもしろメニューとして有名で、やっぱりこれか?と思うのだが、ばーくのプロであるS氏から「途中で飽きるからやめたほうがいい」と冷静な示唆が予めされている。仲間のおもしろメニューとして極厚のベーコンカツという悪魔のようなものもあったり、バターライスという詳細不明なものや、トマトライスカツというなんだか楽しそうなものもオススメされている。迷う。迷う。しかし結局ポークソテー。インスタで裏メニューとして紹介されていたのを見て気になっていたのだった。
ポークソテーってできますか?」お店のお姉さんに聞くと、「できますよ〜、あと、"焼肉"ね」とお返事があり、横でS氏がこくりと頷いていた。S氏は常連になっており、さらに"焼肉"というメニューが定番なのだと聞いていたが、こんなにツーカーなのかよ、とひとしきり笑ってしまう。もう、お店の子じゃん。

ポークソテーちょっと時間かかりますよ〜。」と言われ待つ。
周りの人が頼んでいるものが気になる、オムライスもあったのか、とか、やっぱりトマトライスカツがよかったかもなどと思うが、登場したポークソテーは大変立派で豪快なものだった。分厚いとんかつ用のお肉が2枚どんどん!とお皿の上に乗っていて、山盛りの千切りキャベツとプチトマト、もやしのナムルのようなものと茹で卵がセットになっている。肉はお箸では切れず、ナイフもないので、ワイルドにそのまま口に入れて噛みちぎる。美味しかった。肉汁を活用したような感じのソースはグレイビーとも違うサラサラさ。それが横に大盛りされてるキャベツの千切りにかかったサウザンアイランドドレッシングと、食べすすめるうちにジワジワ混ざり合って、ジャンクさがUP!してうまい。
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大きいなあ、うまいなあ、大きいなあ、うまいなあ、と言ううちに飽きそうなものだが意外とそうでもなく食べ終えた。数日前から胃の調子が悪かったのだが、ばーくに備えて前夜に鍼に行き、胃腸を動かしまくってもらって準備した甲斐があったというものだ。
いつもはS氏のほうが食べるのが遅い(私は世の中の人の平均よりもかなり食事のスピードが速い)のだが、この日は圧倒的にお待たせしてしまった。S氏は通常、わりと少食なのに、"焼肉"はリズムがあるのか、スムーズにご飯のおかわりをしながら食べ切っている。なお焼肉は、豚コマともやしの炒めたのが山盛りになっているものだった。その横には山盛りのキャベツの千切りがあり、ジャンクに見せて実はヘルシーなのではと思わせる。ごはんは通常盛りを頼んで半ライスおかわりするのがコツらしい。最初からご飯をたくさん盛ってもらうのではなく、分けて注文することにより温かいご飯を食べたいという強い意志が感じられてよかった。一方、反対側の隣の席はベーコンカツと中盛ご飯(500g)を頼んでいて、漫画のような山盛りのごはんが供されているのが見られて嬉しかった。頼んでくれてありがとう、隣の人。なお大盛にすると1kgのご飯が出るという。大家族か。

腹ごなしにウロウロ歩いて夜になるのを待つ。途中、S氏の職場の上司にお目にかかるというイベントが突如発生し、しきりに「彼は本当にいいやつで」と仰るのを聞く。私もそう思います、とも言えず、にこにこしていると「だから、彼を幸せにしてやってください」と締められた。
「…努力します」とお返事しながら心底冷や汗をかいた。

さて、17時になり、たかぎ山へ。
「いいですか」と訊くと「予約されてますか」とのお返事。
「してません…」
「予約いっぱいで…」
「何時からだったら、とかありますか」と食い下がるわたくし。
「今日は全時間帯埋まっちゃってて…」
「🥺」
「インスタとかやってますか」
「やってます…」
「DMで予約受けられますので…」
「わかりました…」扉を閉める。
予約できるのか…予習不足だった…何食べるか(ハラミユッケ)しか考えてなかった…と肩を落として、その3軒隣の『壱豚』の扉を開ける。こちらも、武塙シリーズに登場するお店だ。
「いいですか」
「えーっとねー…」
「何時までとかあったらそれでも…」
「6時半までテーブル空いてます」
「ありがとうございます!」朗らかに座った。
ビールと青りんごサワーを頼んだら、見たことのない"中"の量のサワーが来て笑ってしまった。"外"をなるべくたくさん入れて飲む。食べ物は刺盛り小、ピーマンとチョリソーとチーズの春巻き、そして海老ワンタン。全部のメニューがボリュームがあるのに安い、しかもオリジナルのかわいいお皿に載ってきた。刺盛りは四種類もあるし、春巻きはピザトーストみたいな味で面白く、ワンタンはつるりぷるりでとにかく嬉しいのだった。2杯目にハイボールを飲んだ。
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約束の時間にお会計をして出て、ああでも絶対たかぎ山にも行きたいからまた鶴見に来なくちゃ、と言いながら電車に乗り、川崎で降りてもう一杯飲み、渋谷で降りてまた飲んで、さらにもう一軒入った途中から記憶がないのだが家には帰ってきていた。タクシーのレシートがあるので恐らく終電がなくなったのだろう。翌日は夜まで二日酔いでなにもできなかった。
勘弁してくれ、はしゃぐなアラフォー。


ところで、野毛にも行きたいです、誰か。