あんスパのこと

現時点で、名古屋で1番好きなローカルフードは味仙の『コブクロ』かもしれない。
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にんにく盛り盛り、唐辛子ごりごり、小袋ぷりぷり、こりっこり。ビールの神様が作った食べものだと思う。ダイエット中にどうしても塩っぱいもので小腹を満たしたくなって、小袋とノンアルコールビールをおやつに食べたほど。酒飲みの友達が名古屋に来たらコレだと思う。


その味仙の台湾ラーメンも、先述のカレーうどんきしめんも、ど定番と思しき味噌煮込みうどんもまあぼちぼち経験して、みんな好きになった。カレーうどんなんか大好きだなと思って別な店にもどんどん行っている。そこで残る名古屋めしは「あんかけスパゲッティ(以下、あんスパ)」である。なんだか不安で、周りに「美味しいよ!好き!」と言ってくれる人もいなくて、避けていたのだ。それになにしろ、カロリーが恐ろしく高そうなんだもの。こわかった。

夏のある日。Twitterで名古屋の人に教えてもらったあんスパ店に行こうと歩いていた道すがらに、別なお店を見つけてしまったのが、私のあんスパデビューとなった。
店名は伏せる。
気怠いムード、大盛り推奨、スパの上に乗せる選択肢がだいたい揚げ物。ちょっとこわいな〜と思いながら「カントリー」を頼んでみた。
あんスパの世界は不思議なネーミングで溢れている。「カントリー」は、野菜炒めがあんかけの具になっているアイテムのこと。「ミラネーゼ」というのがソーセージの入った商品で、それを組合せた「ミラカン」というのがスタンダードメニューらしい。「ミラカン」の具はナポリタンの具とほぼイコールだ。但し、あんかけがかかっている。
あんかけってなんなんだ。あんかけて何味なんだ?中華のあんかけ焼きそばにかかっているあんかけは(そろそろあんかけがゲシュタルト崩壊し始めませんか)、鶏ガラスープだったり、味覇的な味と思っておけば間違いないだろう。和食であっても、スープにとろみがついたら「あん」になる、というのが基礎だろう。
私が初めて体験したあんスパのあんは、何なのか全然わからなかった。説明のつかない味。良い意味ではなく、わからない味だった。なんだろう、なんだこれは…と思いながら食べた。
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ただ、すごい胡椒の量ではあった。また、あんスパの「スパ」は所謂「ロメスパ」方式で、茹でてある太麺を注文ごとに炒めて食べさせるということも理解した。ロメスパ自体は好きなので、そこに活路を見出して行きたい気持ちだ。


初のあんスパを食べ終わって、頭の中が混乱したまま、もともとの目的のお店に行った。あんスパのはしご。ちょっと気がおかしくなっていたのだと思う。でももう一軒食べたらなにかわかるかしら…と藁をもすがる気持ちで徒歩5分ほど。もう一回「カントリー」を食べてみた。
f:id:l11alcilco:20181015191354j:imageうーん?とりあえずさっきのところより美味しいかな?あんかけが絡みやすいと食べやすいな?ていうか、めちゃめちゃお腹いっぱいだな…?(当たり前)

 

別な日に、あんスパの代表的なお店「ヨコイ」にも行ってみた。スーパーでヨコイのあんかけソースが売っているくらい、ここのあんかけは名古屋人に認められているらしいのだ。知らないことは基礎からよね、と思いながら3度目の「カントリー」。
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なるほど食べやすい。ヨコイはトマト味が強めなのもさっぱりして良いし、目から入ってくる情報(赤色が強い)と舌の情報(酸味)が一致しているのもあって食べやすい。食べやすいとか食べづらいとか言ってる時点で美味しいと思っていない可能性がある。でも、べつに不味いわけじゃない。

段々、「あん」はケチャップとウスターソースコンソメ的な味がついており、胡椒でパンチを出しているものだとわかってきた。ただそもそも「胡椒味」のものを食べ慣れないから、食べはじめたときの驚きが未だにある。ビシッッッと胡椒。こんなにマッタリした見た目なのに!


そんな戸惑いながらのあんスパとの出会いを、生まれも育ちも勤めもずっと名古屋の人に伝えたら「あんスパは、あんスパ食べに行こうってわざわざ行くもんじゃない」「喫茶店のメニューにあったらじゃぁ今日はこれ、と選ぶ程度のもの」と言われてこれまた戸惑った。

むしろ専門店じゃない場所でも出てくるのかよあんスパ!こんな変わった食べ物なのに!!むしろ名古屋喫茶文化の深さはいったいなんなんだ!!! と、御本人にはお伝えしなかったが(初対面だったし)、ツナサンド、ホットドッグにならぶあんスパを想像するとなんだか意外と納得感がある。ナポリタンはナポリにないし天津飯が天津にないのと似たような、あるもので工夫して作ってみたら皆好きだった…みたいなことなのだと思うと、そうかもしれないと思えた。

 

そこで初めて勇気が出て、勤め先の社員食堂であんスパを食べてみることにした。
今の勤め先の社食はメニューの幅がなく、味も含めて最高とは言いがたい。そんな中でも頼みの綱だった「茄子とミートソースのスパゲティ」が数ヶ月前のメニュー改訂時になくなって、あんスパに変更になったときの切なさといったらなかった。なんであんスパ…そんな知らない食べ物困る…やっぱり名古屋の人はあんスパ好きなのかな…と嘆いた。味の見当がついていないメニュー(しかも、美味しそうとは思ってない)を、ウィークリーで目の当たりにするのはつらかった。

写真をお見せできないのが残念だが、社食のあんスパは「ミラカン」で、上に目玉焼きが乗っている。あんの色は薄い茶色。あ〜こりゃチャレンジだわ…と思って食べたら、

なんとびっくり、美味しかったのだ。

色の薄さと連動して味も薄い。それが良い。スパゲティは炒める余裕がないので、ゆるく茹でただけ。それが良い。初めてのあんスパで出会ったあの店の胡椒のパンチも油の強さも、どちらもない。それがとても良い…。きっとこれは、名古屋で1番あっさりしたあんスパだろう。邪道だけど、わたしのあんスパは一旦、これでいい。と、思うことにした。

あんスパは社食で食べる程度でいいんだよー、なんて、名古屋人ぽくて、いいじゃないか。