野良の踊り場のこと

 

踊り場は階段と階段の間の空間のことではなくて、ダンスフロアーのこと。はなやかな光のやつのこと。

 

先日、XGのコンサートを観に行った。
XGK-POPの市場の中にいる日本人の女の子たちのグループ(と言っていいのだろうか。識者からのご指摘をお待ちしています)。ヒップホップをベースにしながら楽しい曲をたくさん出してくれる素晴らしいバンドで、この1年ほど新曲が出たらキャーキャーいうくらいのレベル感で推している。要はお金をかけずに楽しんで、知らないという友達には無理やり聞かせる、という程度。それ以上でもそれ以下でもなかった。

のだが、今年はワールドツアーを初めてやるという。
そこにクアラルンプールも入っているんだという。
それは…それは行くしかない!
新天地で生活はできてきた、仕事もなんとか始まった、楽しみもあるっちゃーある、けど、それは麺を食べるとかケーキを食べるとかであって………パーティーの予定がなかった。
XGがクアラルンプールに来て歌って踊ってくれるのならば、それはもう絶対にパーティーじゃん。
ということで予約開始時刻にコソコソ会社の隅っこに行ってスマホを凝視して高速でチケットをとった。初めて、チケットを選ぶ前に待ち時間が発生するというものを体験した。無闇に予約サイトに入れないので更新ボタンを連打する、とかではなく「あと、30人待ちです」とか表示が出るのね。これはたぶん最近コンサートに行ってる人たちはご存知の現象なんでしょうね。K-POPの世界だけかな。国内のローチケとかだとまた別かな。

話が逸れましたがそんなわけでチケットをとり、ウキウキとその日を待ちました。何を着るべきか?派手な化粧をするべきか?開始は20時からだけど会社から定時で帰るとちょっとぎりぎりになってしまうから、その日は有休をとるべきか?とかやってたら新曲が出たりもして、またそれがとてもいい曲で、これを生で聴けて一緒に踊れるのは楽しみだなぁ!なんて思ったりしているうちに時は流れてついに前日。
そういえばチャントとかあるのかな?と気付いて検索していたら、当日の物販の存在に気づいてしまい、変テコなパーカーがすっかり欲しくなったりしていた。チャントというのはファンが曲中に大声で発する合いの手のことである。Cheeringとか応援とか掛け声とも言うらしい。コールアンドレスポンス的なこともあれば、メンバーの名前を一人ずつ呼んだりもするので、「こんなに曲がカッコいいのに、ずいぶんアイドル的なことをファンは求められているんだな…」と理解するのだった。メンバーの名前とかは曲の間に勝手に叫ぶからお気遣いなく、大丈夫ですよ、私はそういうタイプです、と思うけど、どういう態度が正解なのかわからない。K-POPの文脈の単独コンサートに行くのは初めてだ。なお前述のパーカーはタイダイ染で胸の下までしか胴がない。
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当日は結局、午前中だけ出勤して早退。
帰宅してワクワク準備して現地に向かうと、会場のMega Star Arenaというのはクアラルンプールの新宿兼渋谷兼銀座であるBukit Bintangの渋めのショッピングモールの中にあった。「え、この中?」となりながら進んでいくと、この子絶対XG観に行くんだろうな!という見た目の女の子たちがじわじわ増えてきて楽しい。変な服を着ていたり目の周りにストーンがついてキラキラしていたりしてとてもかわいい。私も私なりに張り切ってお化粧して、数年ぶりにつけまつげもしたし、アイラインを3本描いたのだけど、全然足りなかった。もっとやれた、と思った。
会場の位置だけ確認して、周りで牛肉のロティ*1とホットチャム*2を立食いし、戻る。客層は男女半々、世代は家族で来ている人たちもいるようで幅広かった。ちらほら日本から観に来た人たちもいるようだ。フォトスポットに並んで、前後に並んでいる人と協力し合って写真を撮ったり撮ってもらったりした。

いざ会場がオープンになり、入ると、想像よりもとても小さい!びっくりして写真を撮ってツイートすると「ダンス部の発表会レベルの近さ」とリプライが来て、本当にそうだ。高校の体育館と変わらないくらいの距離感。実は数日前にチケットをアップグレードしたというメールが来ていて、どういうことなんだろうと思っていたのだが、予定していた2階席を全部潰して、すべての客を1階のフラットな席に押し込んだということのようなのだった。哀しい。韓国チャートでもビルボードでも好成績を残しており、バンコク公演も上海公演もデカい会場で完売させたグループだというのに、マレーシア市場にはまだ浸透が足りていないのか。あまりにもこじんまりとした空間に、出演者への申し訳なささえ感じる。これはもう来年以降、クアラルンプール公演自体がなくなるだろうなと思う。経済性の問題だ。次はバンコクシンガポールジャカルタに彼女たちを観に行くことになるだろう。名古屋という土地もよく「名古屋飛ばし」とか言ってコンサートが開催されないことを嘆く人たちがいたが、マレーシアもそれがよくあると聞く。その背景には会場がないということもあるのかもしれないが、市場が弱いという面も大きいのだろうな、などとわかったようなことを考えてしまう。ただ、ここで考え方を切り替えて、この会場で彼女たちを見ることは逆に非常に貴重であると思うことにした。私の中では彼女たちは来年コーチェラに出る予定のスーパーチームだと思っているので、もうこんな距離で見られる機会はきっとない。

 

いざ公演が始まると、わあ〜っと歓声が上がるのだが、誰も立ち上がらない。
開始前の注意書きには「撮影OK、SNSでシェアしてね!」とかに並んで「立ち上がって一緒にダンスしよう!」と書いてあったのだが、だ〜れも立ち上がらない。席に座ったままにこにこしている。
え、ホントに?と焦って私も一旦座る。
導入映像が流れているうちは座ったままワーとかヒューとか言っていたのだが、本人達が登場したらたまらない。踊らざるを得ない曲しかないのになぜ座っていられる?というのはもう、カルチャーですとしか言えないのだろうが *3、ライブを観るならついでに発狂したいくらいに思っているこちらとしては戸惑う。
ちょうど自分の席が列の端っこだったので、席から少しズレて後ろの人が見られるように立った。数列前の男性二人連れも立ち上がった。その人たちの後ろは誰もいない。係員が彼らに声を掛けている。対して彼らは「さっき、立っていいと書いてあったよ!」と主張しているようだ。私も、そうだそうだ、と見守る。係員は一旦上席に確認に行って、戻ってきて、何も言わなかった。よかった。
そうこうするうちに、同じ列の数席先の人も立ち上がって私の横に出てきた。後ろの席の人たちも立ち上がって現れた。この席の端っこの空間が、野良の踊り場になっていた。99%の観客は座ったままで出演者に煽られて立ち上がるシーンはあるのだが、曲が終わったら座る。座るんや…と思いながら踊り場チームはそのまま立っている。そちらはそちらで、こちらはこちらで楽しんでいた、共存できていた、と思う。
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2時間ほどのコンサートは盛り上がって終わり、ああ最高だった、という余韻に任せて、ふらふらとグッズコーナーに吸い寄せられ、前述の変テコなパーカーと派手なTシャツを買っていた。パーカーだけのつもりだったのだが。あれ?と思いながらノーマークだったTシャツも買っていた。あれ…?と思っていたら財布が空っぽになっており、帰ってきてコンビニでビールを買って飲んだ。楽しかった。
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*1:という薄いナンのようなパイのような食べ物

*2:というコーヒーと紅茶と牛乳とが一緒になった飲み物

*3:韓国のお客さんも座って見るそうですね