キャバのこと


なにしろ親戚でスナックを営業していた人が数人いたので、物心ついてから何度もスナックには行ったことがあって、分厚い歌本から「おどるポンポコリン」を選んで歌わせてもらってはマグロの角煮とアルファベットチョコレート(暗いと見分けがつかないから注意!)を食べて育ってきたのだけれど、酒が飲めるようになっても、会社員になってからも、バーには行く機会ができてもキャバクラに行く機会はなくて、なんとなくメディアで見聞きするふしぎな空間だった。
それがなぜだか昨日、一足飛びに「キャバレー」デビューした。
キャバクラでもなく、クラブでもなく、キャバレーに行ってきた。

 

そもそも行った経緯はひょんなこと。
以前からお世話になっているホリエビルのホリエさんと数ヶ月前にお目にかかったときに、最近ハマっているのが焼き肉屋の「あみやき亭」である、という話を聞いた。
あみやき亭は安くて旨くて楽しくてすごいんだよ、ほぼ毎日、最低でも週イチでは行ってるんだよね、という話。曰く、なにしろ飲み放題が1000円で、肉はもう一人ずつ勝手に焼けばいいことにしたら幸せなんだよ、一人ひとり好きな肉を好きに食べて満足するんだよ。隣で相方のイワイさんが「いや〜僕は一緒に行くんだけど胃が追いつかなくて…」と苦笑いするのを聞きながら、そんなの絶対楽しいじゃんとご一緒する決意をした。あみやき亭で華金、略して「あみ金」に、わたしも参加せざるを得ない。
そこからなんだかんだで時間が経って、この2週間ほど「20時より前に帰るキャンペーン」を一人で実施しているのに合わせて参加したのが昨日。みなさんの焼肉スタート時間から遅れること約1時間、自分が食べたいメニューをよくよく電車の中で選んでから店に到着した。着いたらタッチパネルでピピピと頼むだけ。格安店とは思えぬゆったりした座敷で頼むハイボール380円、ホルモンミックス480円、チシャバ(≒サンチュ)150円、カルビクッパのハーフ380円。完璧な布陣。

もりもりと焼いて食べて飲んでいたら、話の流れで「キャバレー花園」が出てきた。40年前からやっているという老舗の盛り場というのは調べたことがある。名古屋駅の近くのお店の前は、何度も通ったことがある。その花園に、ホリエさんと同席していた先輩とで遊びに行って大盛り上がりしたことがあるらしい。安くて面白くて弾けてしまうという話。わたしが「わー、あの道にある、あの店ですよね!? 行ってみたいんですよねー」と反応して、何分後だろうか、わたしたちはそのキャバレー花園の前にいたのだった。
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ギラギラ光る看板の奥に入っていくと、びっくりするほどの超満員。「席片付けるからちょっと待ってくださいね」と言われてぼーっと立ち尽くす。店内は暗くてギラギラしてて、とにかく大音量で`90〜00年代のJPOPがかかっていて、それにかぶさる大音量ですごい早口の男の人のアナウンスが流れていて。は〜、と目をぱちくりしていたら席に通された。
ボックス席に座ると自動でキリン一番搾りの瓶が2本置かれて、テトラパックに入った乾き物(チョコor柿ピー)と灰皿が出てくる。机の上にはドリンクメニューがあって、好きなものを頼んでいいとのこと。料金は時間制で、その間は飲み放題食べ放題。そういうものなの?すごいな。

さっそく席の担当に着いてくれたおねえさん*1が「なんかおつまみいる?」と訊いてくれて、行き慣れた先輩方が「いろいろにして」と答えてくれて、出てきたのは枝豆、さつま揚げ、クラッカーとチーズ、赤ウィンナー。タンパク質だ!赤ウインナーは名古屋の人のノスタルジックな食べ物らしく居酒屋に行くとたまにある。クラッカーに載せるチーズは2mmくらいの厚さだったが妙にそれが美味しかった。そのあと出してもらったおでんも、こんにゃくが3mm厚で面白かった。よく噛んで*2食べた。
ちょっと飲むだけでグラスいっぱいにしてもらえるビールを飲みながら、わたしはここに来るには飲みが全く足りないことを自覚していた。あみやき亭の飲み放題をしっかりやりきっていた同行のお二人とはテンションが違う、ほぼシラフだ。しかし追い付く気で飲みまくる元気もない。ちびちびやりながら、周囲の様子を眺めて過ごす。ミーアキャット並みにキョロキョロして、ろくに発声できず、しらけた若者のような姿勢になってしまい、申し訳ない。

最初に隣りに座ってくれたおねえさんは「働きに来たの?人手不足だからすぐ採用してもらえるよ」から始まって、二言目には「もう決めた?」と訊いてくる人で面白かった。それ以外は割とアンニュイで見たことのない種類のタバコをスパスパ吸っている。
一瞬わたしも「キャバレーだなんてちょっと楽しそう」と思っていたが、様子を見ているとどうも難しい。おねえさんたちはよく見ると全員ノースリーブでミニスカート。壁沿いには一人席がずらりと並んでいて、お客さんとおねえさんが並んで座る。コメダ珈琲の一人席のミニソファー、あのサイズ感である。必然、密着して、お客さんはおねえさんの肩や腰やに手を回す。それを見て私は「へ〜」とは思えず、「ゾッ」としてしまったのだった、割となんでも「へ〜」で済ませられる鈍感な性格なのに。これが世の"キャバ"がつく場所で、毎日起きていることなのか。

30分に1回、ダンスタイム*3があり、おねえさん方がおもむろに立ち上がって踊る。席で踊る人、お客さんとチークダンスする人、団体客とみんなで輪になって踊る人、いろいろだ。会社のみんなで来たのかなというスーツの人たちが、男同士で手を繋いでワイワイしている様子が微笑ましい。男の人たちはこうやってオキシトシンを分泌させてきたのかな、などと思う。大事だもんねオキシトシン
2回目のダンスタイムは野球拳で、隣の席の若いサラリーマンがどんどん脱いでいく。おねえさんは腕時計やシュシュを外す。戦略だ。
3回目のダンスタイムはLight Of Fireだった。パラパラだ。その頃には程よく酔っていたのと懐かしかったので、座ったまま私も踊った。スマスマ世代だよね、バッキー木場だね〜と話したおねえさんと、LINEの交換をした。

終わりの時間になると底の見えない真っ黒のお椀が出てくる。なんだろうと思ってこわごわ啜ると、具のない赤出汁であった。お疲れ様の意味だろうが、なぜだかすごく面白かった。ここで出てくるシメの汁物、何を置いても赤だしの味噌汁であるべきだよと納得させられて笑った。
店内は撮影禁止なのだけど、ああこの味噌汁を絶対に忘れてはいけないと思ってこれだけ撮ってしまった。
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なんかすごかったな…と思いながら家に着き、いつかの残りのレモンハイを飲み、買置きのどん兵衛を食べたのだった。また行きたいかと訊かれると、うーん、ちょっと、行きたいかもしれない。

 

 

 

*1:こういうときには"おねえさん"としかこの人たちを呼びようがないなと思った。わたしより若くても年上でも、おねえさんだな。

*2:こんにゃくは腸閉塞の原因になりやすいので、腸閉塞経験者はよく噛みましょう。

*3:正しくはゴーゴータイムと呼ぶそうです。