耳のこと

 

仕事中に周りの人の話が気になってしまって集中できない、というのはよくあることだと思う。
わたしは社会人になってからこの15年超ずっとそうで、新卒のときの会社の先輩には「君は耳がいいね」と褒められた。たしかに長所でもあるのだ。周りの人が話していることから物の事情や力関係や流行がわかったり、自分の仕事に絡むことなら混ざって話したり、困っている人がいたらパッと立ち上がって助けることもできた。
しかし短所としては…ある人と話しているのに(なんなら電話してるのに)横の人たちの会話が耳に入ってきてしまって、本来の話相手の言っていることを全く聞いてない時間が発生しまくっていた。やるべきことをやっていても、聞こえてきたことに意識が逸れて「あれ、いま何やってたんだっけ」と画面の中で開きまくっているウィンドウを全部見返したりしていた。「すいません集中してて全然聞いてませんでした!」というセリフを言ってみたい。「意識散漫で聞いてませんでした!」とはなかなか言えない。聞いたフリをしながらにこにこ話を推測して会話に戻る。
なお、これは仕事だけに限らず、たとえばデートしているときに隣の席に座ってる人たちの話ばっかり聞いてしまうということも多発していた。なるべく広々したところで他の人の会話が聞こえない環境でデートしたいものだ。その前に目の前の相手を見る気持ちをもっと持てよと言ってもらっても構わない。

さて、転職してマレーシアにある企業に勤めてみると、周りの80%くらいは日本語を話していないので全然これがないのであった。音は聞こえても、耳に入ってこない。周りの人は中国語かマレー語か英語かを話している。英語はいくらか勉強したので、話している内容が耳に入ってきてもらってもいいのだが、残念ながら全然入ってこない。
なので、集中して仕事ができる……となるかというと、まぁそういうときもある。気が散らないので、長い文章を読んだり物事をこまごまと調べたりできる。合間に止められることもあまりなく(できる業務が半人前以下だからというとのあるが)、自分のペースを乱されない。逆に言うと前職では己のペースなどというものはほぼないに等しく、すべてが流動的だったような気がするが、あれは異常だったのだろうか、その異常は自分の耳のせいだったのだろうか、わからない。
逆にここに来て日本語は大変によく聞こえる。英語のポッドキャストを勉強かたがた趣味かたがたで通勤中に聴くのだけど、どんなに聞き取りやすいアナウンサーが話していても集中していないとすぐ意識が別なところに行ってしまって、話がわからなくなる。なのにショッピングモールの中を歩いている日本人がポソポソと話しているのはツルツルと耳に入ってきてが意味がわかる。母語の聞こえ具合というのはとてつもない。

そうこう言いながらも、自分のペースで仕事なり生活なりができる喜びと並んで、周りの人たちが何を話しているかわからない寂しさが同じくらいある。仕事中も他の言語話者が盛り上がっていたりすると、すごくすごく気になる。なので、今週から、マレー語のレッスンを受け始めました。中国語も本当は受けたいけど、両立できるかわからないのでとりあえずマレー語。わかるようになるかなぁ。


f:id:l11alcilco:20240712190254j:image(マレー語と英語の併記がほぼどこでもあるので、マレー語がわからなくても生活にはあまり困らない例)