りゅうほうのこと(前編)


町中華というのがなんだかブームになって、その火は一瞬で消えてしまったような気がする。そんな中、今更ながら申し上げると、わたしのベスト町中華は神楽坂の龍朋である。

そもそも町中華って、わざわざ出かけて行って食べるようなジャンルでもないと思う。会社や家の近所にあって、お昼に食べに行ったり、会社の帰りにビールを飲んだり、土曜のお昼に食べたり。以前勤めていた会社でも、「ヨコ中」「ワキ中」と呼んでいた中華料理屋さんがあって、お昼やサク飲みで活用されていた。なお、ヨコ中は会社の横にある中華で、ワキ中は脇を入ったところにある中華で、このあだ名の付け方は最高だなと思っていた。ただしお店は中国人の方が切り盛りされていたので、正確な町中華ではなかった(正確な定義はなんなのか)。
きくらげの卵炒め定食とかを食べていた。


で、龍朋のこと。

神楽坂近辺に引っ越してきて、あまりの店の多さに「何を食べるべきか」悩んだわたしは、近隣の書店で雑誌を立ち読みした。そこで能町みね子さんが紹介していたのが龍朋であった。能町さんは「トマトと卵のラーメン」がうまい!と書いていたので、わたしの初龍朋でのオーダーはそれに決まった。
いざ食べてみると、スープが、不思議なベージュ色をしていて、あっさりしているのに、同時にこってりしていて…正直そんなに好きではなかった。一緒に行った母はチャーシュー麺を頼んだが、2人とも、美味しいけど大好きではない…と思いながら店を出た。


よって、この初めての龍朋から、2回目までには暫し時間が空いた。


2回目は、いつだったか忘れてしまったが、ものすごく酔った翌朝というか既に昼になっていたときのことだった。二日酔いによる少々の吐き気を覚えながら、まぜ麺の類を食べたいと思って龍朋に入り、ジャージャー麺を頼んだ。龍朋は温かいジャスミン茶を出してくれることを知って、二日酔い女は感動した。

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ジャージャー麺が来た。お酢をダバダバかけながら食べる。うまい。
お客を全然待たせないことにこのとき気がついた。よく見るとすごく清潔感に溢れるお店だということも。
そして、食べている間にもう1つ気がついた。周りのお客さんの殆どがチャーハンを頼んでいるのだ。
チャーハンか…ここはチャーハンを頼む店だったのか。
眺めているとそのチャーハンの美味しそうなことといったら!私はそもそも素敵な中華料理店のパラパラチャーハンよりも、ラーメン屋で出てくるペタっとしたジャンクなチャーハンが好きなのだ。ナルトが入ってるやつね。
チャーハン…チャーハン…と思いながらジャージャー麺を食べおわり、次に来たときのメニューが決まった。


2度目の訪問から間髪入れずに3度目に来た。席に座りながら迷いなくチャーハンを頼み(そういうお客さんがとても多い)、全然待たずに食べはじめた。

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あーこれは、全然普通のラーメン屋で出てくるチャーハンとは違うのだ。でかいチャーシューがゴロゴロ入っていて、食べごたえがある。そのチャーシューがうまい。あとはネギと卵のチャーハン。パラパラでもないし、ペタっともしてない、しっとり。お醤油っぽい香り。うまい。ちょっと、うぉーっ、と小声で言うほどうまい。この美味しさは誰かと分かち合いたい。


しかしチャーハンの相席になった男性はあんかけ焼きそばのようなものを食べていて、それはそれで光り輝いていた。めっちゃ美味しそう。「あの…それはかた焼きそばですか」「あ、これは普通の焼きそばです」答えてくれたついでに一口くださいと言いそうになったが普通に知らない人なので踏み止まった。チャーハンのおかげで要らん勇気が湧きそうになった。そしてまた食べたいメニューが決まった。

 

(後編に続く)