自分がスナックを開いた暁には、必ずポッキーを出そうと決めたので経緯を聞いてほしい。
小さい頃、親戚がカラオケスナックをやっていて、よく連れて行かれた。夜ではなく昼だ。この10年ほど、カラオケスナックは昼も営業していて、ランチ付き歌い放題1000円みたいなものが郊外の老人たちの憩いの場としてわりとあるけれど、その頃はまだそんなことはなかった。夜しか営業していなかった。だから昼に子どもを連れて行っても問題なかった。しかし店内は薄暗くて、タバコ臭くて、椅子も机も赤いような紫色のような、名前の知らない色だった。
行くとお菓子が出てきた。アルファベットチョコレート、甘いのか塩っぱいのかわからない豆、マグロ角煮、そしてグラスに立てられたポッキー。
当時から私は酒飲みの舌だったので、銀のホイルに包まれた塩っぱくて味の濃いマグロ角煮が好きだった。チョコと交互に食べるとちょうどいい。どちらも包みを開いて食べたら、その包紙で折り紙をして遊ぶのだ。小さい鶴を作っては見て見てと親に自慢していた。
で、ポッキーである。
美味しいけど、好きでも嫌いでもなかった。出てきたら食べるけど、ほしいとも思わなかった。
そのまま時は過ぎ、高校生くらいになったら急に「ポッキーの日」が宣伝され始めたけれど、その頃のおやつはもっぱらセブンイレブンの唐揚げ棒だったのでほとんど食べた記憶がない。大学生になり会社員になり、ポッキーはいきものがかりから三代目 J Soul Brothersのものになり、「宣伝してるなあ」と思いながらも、ずっとポッキーを食べていなかった。
先日、例によって大いに酔っ払って帰宅する合間に、なぜだかわからないがコンビニで極細のポッキーを買った。
酔って帰ってくる間に買う甘いものって、なぜか帰宅するとどうでもよくなって、食べない。極細ポッキーもしばらく冷蔵庫に入れっぱなしになった。ちょっと存在を忘れるほど何日か、放置された。
昨晩、一人で食事をしたあと、もう少しなにか食べながらお酒を飲みたいな、と思って、冷蔵庫を漁ったのだがなにもなく、遂にポッキーを開けた。で、気が付いた。
めちゃめちゃ美味いのだ。
冷えた極細ポッキーがめちゃめちゃ美味い。
歯先でポキポキ折れる感覚も楽しいし、一本ずつ軽いのがいい。ビスケットの塩気とチョコの甘さが丁度いい。冷えていると甘さが強く感じないのもいい。ウイスキーに良い。なんとまさにスナックで水割りを飲みながら食べるのに最良のアテじゃないか…
目が開かれる思いだった。
ポッキーにしたら「わたしは昔からスナックで出されてるんですよ」「グリコの看板商品で常にトップを走ってるんですよ」というお気持ちかと推察するが、わたしにとってはおつまみ界の大改革。というか、ダ・カーポ。始めに戻った気持ちになった。幼すぎて気が付かなかったけれど、あのときのポッキーにそんな意味があったとは…王政復古の大号令であった。
そんなわけで私がスナックを開店するときのメニューは、ビールの135ml缶と極細ポッキー、シメにペヤングソース焼きそば。
もうこれでいいんじゃないか。