無茶な旅のこと

 

勤め先が出してくれていた就労滞在ビザが退職に伴い12月26日までに短縮されたため、12月27日にはこの国を出なくてはならないという厳守すべきスケジュールがあった。このまま日本に帰るという選択肢ももちろんあったが、「一旦どこかに出て戻ってきて、観光ビザでしばらく滞在する」という裏ワザ(というか、なんだ、まぁ、選択肢)を教えてもらい、なるほどそのほうが引越しの荷物のあれこれが調整しやすくて良いかもしれない、などと思って、近隣の国に出る飛行機のチケットを探した。年末ということもありどこに行くにも良い値段。結局マレーシアから最も近い国であるシンガポールに出ることにした。出国の飛行機のチケットを提示しないとビザの短縮もできないということで、えいやと片道だけ買ったのだった。それが11月後半。

シンガポールはホテルも何もかも高いし、行くだけ行って泊まらずに、日付が変わったら戻ってくるようにしようか…などと思っていたが、そういえばやりたいことリストに入りっぱなしになっていたマレーシアのレゴランドシンガポールから近いんだったと思い出し*1シンガポールからレゴランドに行くバスチケットを取った。調べるとレゴランドからクアラルンプールへもバスがあることがわかり、じゃぁそれで帰ってくることにしようと決めた。18時半にレゴランドを出て、23時半にクアラルンプールに着くという。夜中だから、そこからはGrabで家に帰ってこよう。そう決めたのは11月末。

とにかく家でのんびりゆっくりしながら荷物の整理と箱詰めをしたいな、と思っていた。いたのだが、いざ退職してみると安室奈美恵Chase the Chanceのラップパートの気持ち*2が優勢になる。レゴランドからTBS(クアラルンプールの高速バスターミナル)に帰ってきて、そこからGrabで深夜料金を払って家に戻ってくるというのが、急につまらなく思えてきた。夜中にTBSにいるなら、TBSからどこかに行けるんじゃない?と天啓らしきものが降りてきて、一度は行きたいと思っていたイポーへのバスの時間を調べる。こういうときの天啓は大概が無茶である。
26時半発がある。朝の6時半に着く。
23時半にTBSに着くなら、3時間はなんらか作業したり本を読んだりで潰せるだろう。これはいいぞ。
調子に乗って、イポーからクアラルンプールに戻らず、もう一箇所行ってみたかったペナンにも行くことにした。旅行のあれこれを予約しているときが一番アドレナリンが出ているかもしれない。f:id:l11alcilco:20260104135525j:image

12月26日、最終出勤日の翌々日、シンガポールに行く前日、移動と宿泊の予約を済ませ、のんびりゆっくりのつもりだった荷造りに精を出した。年末年始はちゃんとお皿を使ってご飯を食べたいと思っていたけれど、箱の重さを量ったりすることを考えると一旦諦めたほうがいいなと気付いて箱にどんどん詰める。発送用の書類を作って送り、寝る。


12月27日、朝2時に起き、3時にGrabに乗って空港へ行く。vlog用のカメラを持ってきたが起動するとSDカードが壊れていた。事前確認不足である。空港で売っているSDカードの値段を見たら市価の倍したので悔しくなってやめてしまった。
無事に出国し6時に飛行機が飛ぶ。寝て起きたら一瞬でシンガポールだ。
シンガポールはマレーシアの隣なので、似ている、がしかしやっぱり全然違う国である。入国前申請のウェブサイトの使いやすさも全然違うし、空港は広くてサインがわかりやすいし、自動ゲートで入国したら5分後にメールで入国証明が送られてくるし。センスある。空港に併設されたJEWELという施設もトランジットの時間つぶしにちょうどよく作ってあり、なるほどとなった。約10年ぶりに遊びに来たが、なぜこんなにも隣国と違うのだろう。公共交通網の充実。信号を守る歩行者。きつすぎない冷房。都心は自転車用レーンがしっかり整備されていて、フードデリバリーもバイクより自転車が多そうだ。なにより建物がきれい。同じような気候で同じような建物があって同じくらいの古さだと思うんだけど、圧倒的にクアラルンプールのほうが煤けている。メンテナンスする余裕の差なんだろうか。食べ物の値段はマレーシアの2倍以上する。
朝ごはんは、インスタで見たおしゃカフェ*3に行こうと思っていた。到着すると混んでいたので即諦めて、向かいに偶然あったベトナム料理店*4に入ってコーヒーとバインミーのセットを食べた。美味しい。周りにはインド系のムードのよい店が並んでいて、魅力的なエリアだった。
うろうろした後、メモしていた本屋*5に行ってみるときれいな古本屋だった。絶対買わない、Kindle持ってきたし、見るだけ見るだけ、と思っていたのは入店3分までで、やっぱり欲しくなってしまって1冊買った。これまたメモしていたカフェ*6に入ってすぐ読む。ショートストーリーで読みやすい。買い立ての本って寝かしていた本とはちょっと別な味で美味しい。この感じが久しぶりで嬉しい。
しばし睡眠ののち、再度うろうろ。ちょづいてる人がいっぱいいるから私もちょづいて大丈夫、というのは結局周りを気にしているんだよな、と情けなく思いながら変な服を着てサングラスをかけてちょづき歩いている。
New Bahru*7という最近できたローカル作家が集積しているらしき施設に行く。が、その手前でお腹が空いて、良い匂いのする中華屋*8に飛び込んだ。一人用のご飯プレートをありがたく注文、うまいうまい。今日は調べてない食べ物が当たりの日。
ニューバルは廃校をリノベした施設。想像していたよりかなり商業商業したところだった。もっと手作りな世界観かと思っていたけど、がちでシャレていた。ショップもレストランもイケてる店がたくさん入っていて、イケてるカップルがたくさん来ていた。下北沢のBONUS TRUCKのような、街の中に新しい人流ができている感じがした。
アジアTOP50に選ばれたバー*9に行ってみる。満席で断られ、付近の別な店に。*10バーボンとスパークリングワインにスパイスとりんごというメニューを頼んでみる。おつまみは芽キャベツカリカリベーコンの炒めにホットハニーがかかったもの。塩っぱくてうまい。調子が出てもう1軒。*11マルガリータを頼んでみるが、思ったより酸っぱくてキツい。やっぱりカクテルを選ぶのは難しいな。
シメのシメにアイスを食べようと付近のお店*12に入ったら、決済手段が現金かQRしか使えず、食べられなかった。おとなしく宿に戻って寝る。


12月28日、早起きしてあれしてこれして、と思いながら、結局9時頃まで寝てしまった。バスに乗りバスターミナルに向かい、バスの券をもらうと、このバスターミナルからは乗るべきバスは出ていません、と言われる。あ、そうなの?と案内されたバスターミナルへバスで向かうと、目的のバスが見つからない。ここ行きたいんですけど、と聞くと、何番のバスに乗っていけと言われ、またバス。
さてここまで何回バスと言ったでしょうか?
やっと正しいバスに乗り、シンガポールの国境に行き、出国ゲートをピッと通ってまたバス。交通標識がマレー語になり、スマホが使えるようになった。すぐマレーシアの国境に着き、入国ゲートをピッと通ってまたバス。時刻表がないので何時に来るのかわからないままバスを待つ。そのうえ大雨が降ってきて、テンションがガタ落ち。変なところで降ろされて、とぼとぼ歩くとレゴランドに辿り着いた。
着くとパークはまだまだクリスマスモードで、ドラムとバグパイプのショーをやっていた。クリスマスとバグパイプの関係性は不明だが、演奏はかなり良い。最後はWe wish you a merry christmasを演奏しながら、観ている子どもたちにスネアを叩かせていて、楽しかった。ほかにもいろいろクリスマスイベントやショーをやっているようだった。園内を巡ると日本より広くてゆるくて面白い。しかし食事の値段がめちゃくちゃ高い。マレーシアにあるけど園内の価格はシンガポールだよ、と噂には聞いていたが本当だった。コスパに耐えかねてポテトとチキンナゲットだけ食べて外に出て、ローカル喫茶店で改めて休憩した。
レゴランドの駐車場から再度バスに乗り、TBSへ。途中、トイレ休憩に寄ったサービスエリアはスナックや飲み物のベンダーが5軒ほど並んで大にぎわいだった。この国の人たちはいつもなにか食べてて嬉しそうなところがかわいい。よく寝た、と思って目覚めると全然バスが進んでおらず、23時半に着くはずが結局25時半になっていた。


12月29日、思ったよりもギリギリにTBSに着いたので焦ってイポー行きのバス乗り場に行く。しかし全然乗せてくれない。2時半発の予定だが3時時点でどうなっているのかわからない。ねむい。しんどい。そんなときでもにこにこしているお客のみなさん。強い。結局バスは3時45分に出発し、7時にイポーに着いた。
イポーといえば中華だ。中華ともやしとプリンだ。それしかわかっていないぞ、という気持ちでまずは朝飲茶。メモしていた店*13に行ってみたら、そこの四つ角すべてが飲茶店という激戦区であった。店員さんがお盆で食べ物を持って回るスタイルなので、強い気持ちで注文する必要がある。これ、と言ったら引き返せない。このお盆は一度来たらしばらく回ってこない。でも次のお盆に本当に食べたいものが載っているかもしれない。歯を食いしばり糯米鶏と醸豆腐と腸粉の三品を選ぶ。本当はエビ蒸し餃子と大根餅と肉まん餡まんも食べたかった。シメに芝麻糊を食べ、満腹。
うろうろ散歩してみると、景色のすぐ後ろに山がある。古くて大きい建物が大切に使われているようで、屋根や壁に彫刻された漢字がかっこいい。タイポグラフィのことを思うとアルファベットってすぐカッコよくなってずるい、とずっと思ってきたけど、柔らかく書かれた漢字のデザインというのは素敵なものだな。
休憩しながらVlogの作業をし、また歩く。暑くて、歩く途中で観光地らしい変なお土産やさんに入って涼み、出て入って涼みする。博物館の類いは月曜休館が多く行かれなかった。
昼兼夕飯として、河粉ともやし炒めを食べる。*14河粉、味が濃くないのに海老と鶏の出汁なのかスープが美味しくて、こりゃ名物ですねと唸る。チュルチュルした麺を啜るのも気持ち良い。もやしはシャキシャキで合間にちょうどよい。本来ならばプリンも食べるべきなのだが、満腹でできず。
バスに乗って2時間ほどでペナンに着く。フェリーターミナルで降ろしてもらうと、ちょうど21時のフェリーが行ってしまったところで、30分待つことになった。その間に当地で食べるべきものなどを調べていると、夜9時半からしか営業しないナシカンダール発祥の店*15というのを知ってしまった。バス酔いして食欲はないが行きたいな。
フェリーに乗ると他の乗客がスマホから流してる音楽がBGMになっていて面白かった。しかしジョージタウンに着くと一緒に乗っていたマレー系のみなさんはどこかへ見えなくなり、逆にいかにも観光客という人たちであふれていた。マレーシアでなかなか見たことないレベルの高い白人比率!みんな外で飲んでて幸せそうだ…びっくりした。
宿に着くと改めて出かける気力もなくなり、ごろごろしているうちに寝てしまった。


12月30日、しかしわたしはこう、知らないところに行って、何を味わいたいのかなあと思う。思いながらチェックアウトの11時ぎりぎりまで寝たり起きたりしてしまう。
ジョージタウンは小さいお店がごちゃごちゃしているから歩くのが楽しい。街を歩いてる人の9割が観光客なのがなんだか面白い。リゾートらしい雰囲気の洋服店に白人の夫婦が吸い込まれていくのを眺める。
まずはアッサムラクサを食べる。*16 店に入ると半自動的に注文がアッサムラクサと春巻きとライムジュースに決まった。アッサムラクサは麺が丸くてプルプルしている。少し酸っぱいスープ、いろんなハーブにお魚、パイナップルが合う。カップヌードルになったシンガポールラクサとは全然違う味で、こちらのほうがアッサリしていて好きだ。食べたあとも口の中がおいしい。春巻きは正直ちょっと食べなくてもよかったな感あり、まぁそういうこともある。
プラナカン美術館と間違えて孫文博物館*17に入ってしまったり、偶然みつけた本屋*18でまた本を買ってしまったり、世界のコーヒー店100に選ばれた店*19に行ってみたら満席で諦めたりしつつ、ブルーマンションへ。*20 着くと館内のツアーチケットは売り切れと言われるが、バーなら予約なしで入れそうだったのでしれっと入館。しれっとシグネチャーカクテルを頼んだらおいしかった。しかしアルコールが強すぎたので調整してもらった。バーテンダーさん曰く、毎年泊まりに来る日本人もいるという。ひとしきり館内を見学して、いつかまた来たときには泊まってみたいと思った。
海を見に行って一息つき、近くのカフェに入ってvlog作業する。帰る前に何を食べるべきか、ナシカンダールかクイティアオか、うーんと地図を眺めていると島の端っこにグリーントムヤムヌードルというものがあったので行ってみることにした。*21
辿り着くとそこは海辺のホーカーセンターの中の1店舗だった。圧倒的大行列で、オーダーを取る人は1人、極狭のキッチンには3人、提供する人は1人という体制で回している。しばらく並んで注文してお金を払うと、ピーピー鳴るやつを渡されて待つことになった。ほかに20店舗くらい店が並んでいて、この店以外はPasemburという食べ物が人気のようで人だかりができていた。いろいろな練りものを揚げたようなものがずらーっと並んでいて、好きな種類を選んだらそれに辛いソースをかけて食べるらしい。お腹に余裕があれば挑戦してみたかったが、1人だとなかなかこれが難しい。店の外はすぐ堤防で、ジュースを飲んだり凧揚げしたりしている楽しい空間だった。
そうこうしているとピーピー呼び出される。グリーントムヤムヌードル以外に焼きビーフンもメニューにあり美味しそうだったので、焼きビーフンも頼んで持ち帰りにさせてもらった。欲張り。グリーントムヤムヌードルの麺はしらたきみたいに細く透明な米麺。スープは本来のトムヤムほど辛くはないが、かなりハードなニンニクと、ミントのような少しスースーする感じの味わい。揚げたお魚がとてもマッチして美味しい。うーん、しかしすごいニンニクだ。

ここでしか出会えないかもしれないという言い訳(もしくは免罪符)を持つことでお金を使ったり必要以上に食べたりするのを許す、ということだよな、私の旅行。「せっかくだから」にすべて詰まっている、というか、詰めている。本当は普通に生活している場でもそういうシーンはいくらでもあるのだけど、あまりこのモードはONにされない…常にONにしておくと困るからだ。ハレとケの話。季節の果物を食べるとか、本当はすべてが一期一会の出来事だけど、ケの状態ではそれをやっていると破産してしまう。

いつの間にか日が暮れて、バスに乗って空港へ。ジョージタウンを離れるとそこはもう私の住むところと大して変わらなくて、巨大なコンドミニアムとか、ユニクロとイオンが入ったショッピングモールとかが道中見られて、なんだかホッとした。ペナンにも日本企業やメーカーがけっこうあると聞いていたが、実際に住んでいる日本人とかはこの辺で生活してるんだろうなと想像がつく。ジョージタウンが異様なまでに観光地なだけなんだ。納得。
定刻22時40分のプロペラ機でスバン空港に戻ってくる。空から見るとペナンは大きな都市で、バターワースからジョージタウンへの一本橋が長く続いて見えてすてきなのだった。23時20分着陸。
おそらく空港から家が近すぎて料金が安すぎて、しばらく誰もGrabの予約を取ってくれなかった。15分後に現れたドライバーさんはいつにないスピード感で深夜の道路を走ってくれた。ありがとう爆速おじさん、時間効率を高めようとしているおじさん…。

 


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以下、この日々のVlogです。ビジュアル・エイドとしてご覧いただければ幸いです。
シンガポール

レゴランド

イポー

ペナン

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