そもそも、かなり出遅れ感がある。
お店の存在は『生まれた時からアルデンテ』の平野さんがインスタにのせていたから知っていたし、それ以外の食べることが好きな人達も絶賛…というか、好かれていたことを知っていた。
超美味いよねジューシーでボリューミィでインスタ映えだよねみたいな世界観ではなく、フィロソフィーみたいなところも含めて好意を持たれているお店なのかなと思っていた。
なぜ行かなかったのか、ハッキリとはわからないのだけど、なんとなくまだ行かなくていいかなと考えていたし、たぶんその根っこには、ここには私の苦手な「丁寧な暮らし」的な何かが待っているのではないか…と恐れていたんだと思う。
行くきっかけになったのは、昨日、美味しいものを食べる先輩であるKご夫妻とお会いして、『ダバ☆クニタチ』と『按田餃子』にまだ行ってないなんて、なんと勿体ない!と嘆かれ、発奮されたからなのだ。わたしは普段はそうでもないのに、こういう席では非常に返事の良い女なもので、でかい声で「行きます!明日行きます!」と答えたのだった。
本来の予定は、朝起きて国立へ行き、ダバ☆クニタチのモーニングを食べる。(インドカレー屋がモーニングをやっているということがまずスゴいよな) そしてウロウロしたのち代々木上原まで移動して按田餃子でお昼を食べる。夜は送別会。ということだった。
わたしは明日現在勤めている会社を退職し、東京を離れて名古屋の会社に勤めるのだ。だから、ごく短期的に見ると、有休消化最終日の今日しかチャンスがなかった。
しかし実際には、昨日の夜のご夫妻との会が楽しくて嬉しくて調子に乗ってそのまま一人でもう一軒行ってしまい飲みすぎて、朝起きられなかった。明日の支度をしたり銀行用事をしたりしていたらもうモーニングの時間にもランチの時間にも、国立に着くことは叶わなくなっており、諦めた。国立は次回への宿題にしよう。
そして、按田餃子である。
到着した平日の午後3時前、外に行列ができていておどろいた。さすがにこんな中途半端な時間は空いているだろうと思ったのだが、テレビ効果なのかインスタ効果なのかオシャレなやつはだいたい友達だからなのか、とにかく満員だ。
回転が良いので大して待たずに座れた。水餃子定食を頼んだ。美味しかった…そして、優しかった。ムチムチしており、あっさりしており、かつ、それぞれの水餃子はいろいろな味がしており、なるほどこれが按田餃子なのだなと思った。定食についたごはんもスープも美味しい。特にごはんはすこしスパイシーで具沢山で、「まじぇてね」の食べもので、カレー的だった。
こんなの、大好きだ。
ああ、ラゲーライスも、泡菜乾麺も食べてみたい…麺ならこの定食のあとでも食べられるのでは?頼むか?とまで思ったが、初めて入った店での奇行は避けたいので諦めた。
お店の中は、きれいな町中華のように見せている、映画のセットみたいだなと思った。宮沢りえが一人で切り盛りしている感じだ。
ラゲーライスを紹介する写真も、POPEYEかBRUTUSの表紙のように独特のトーンがあるなと思う。そのへんがなんだか、来る前に恐れていた、丁寧な暮らし的な世界観のようで、やっぱり少し遠く感じる。気取ってなさときれいさの組み合わせが誠実の塊のように見えるのかもしれない。嘘じゃないに決まってるのに、嘘なんじゃないの?と勝手に思い、それを怒られそうな気がしてこわいのだ。
食べている途中で、メニューが昼から夜に変えられた。続き営業だが、15時から夜メニューになるということを知った。それをチラリと見るとなんとまあなんとまあ魅力的なんだろう。
「糠漬」
「パンチの効いた蒸し鶏」
「鶏肉の番茶ココナッツ煮」
ああ、これもそれも、一体どんな味なんだろう、なんだよこんなお店が近くにあったら毎日通ってしまう、おかずと水餃子をパッと食べて、声にも出さずウフフ美味しいなと思い、ビールかなにかサラッと飲んでパッと現金を払って帰りたい。いいなあいいなあ。
トーンがどうのと文句を言っていたけど、結局メニューへの好奇心に負けてしまう。また絶対行くんだ、こんどは誰かと言って何品か頼んで少し飲むんだ、とときめいた帰り道だった。
ついでに著作も購入したので、恐れに対してもクリアにしていきたい気持ち。