コンパルのこと

名古屋名物のひとつにエビフライがある。 エビフライが名古屋名物になったのは理由をよく知らないが、 たぶん名古屋城に鎮座まします金のシャチホコと関係があるのだと思う。 そして、エビフライは往々にして特大というメニューが喜ばれると思われているらしい。エビフライの特大とは、大きいエビを使っているのか、それともエビをつなげて大きくしているのか、コロモを大きくしているのか…大きいエビなんだとしたらそれはどこから来るのか…食べたことがないのでまだわからないのだけど、これはなんだか名古屋で不安に思っていることの一つだ。


そしてもう一つ名古屋といえば喫茶店のモーニング文化。 コーヒーを飲むとトーストとゆで卵が自動的についてくるみたいなシステム。さすが、気の利いたサービスだなぁと思うのだけど、なかなか早起きすることができなくてあまりじっくり体験していない。たまにしか行かないからいつゆで卵を割り始めたらいいのかわからない。そこで食べると言われている、朝だからこそ許される糖分の塊と思しき「小倉トースト」も、まだ怖くて食べたことがない。


さて、コンパルのことだ。
コンパルは名古屋市内の喫茶店チェーンで、先述したエビフライとトーストを組み合わせた、名物・エビフライサンドが一押しメニューだと思われる。メニューにもさらりと名古屋名物と書いてあり、ガイドブックにも載っている、鉄板のご当地 B 級(?)グルメが、コンパルのエビフライサンド。


わたしはね、わかっていたのです。これはまずいわけがないと。 エビフライはおいしい。 焼いたパンはおいしい。おいしい+おいしい=おいしい。しかもお互いがギュッと身を寄せ合って、キャベツの千切りと一緒になっているというビジュアル、まずいはずがない。
ただなんというか、 一人で食べるには重たそうだなあと思ったり、まあいつでも食べられるだろうと思って、誰かが名古屋に来た時に食べようかなあ…なんて思っていた。 でもある日、栄のコンパルの前を通ったら空いているもんですから、そしてお腹も空いていたもんですから、一人でパッと入って食べてしまったのだった。


シャツにベストの制服を着たお姉さんがきびきびと働いている店内。入ると目も合わさずに「空いてる席どうぞー」と投げやりに言われ、「こ、これは勝ち組の店だからこそのご対応…!」と思う。ハイとお水とおしぼりを渡されて、エビフライサンドをくださいと牛丼屋でものを頼むみたいなスピード感で伝えると、はい分かりましたと言われその場で「エビ、ワンでーす」と叫ぶお姉さん。お互い牛丼屋のテンポだ。
座った右隣はおばあちゃまで、左隣はお仕事途中のおじさまだった。 お二人とも頼んだのがミックスサンド。 おじさまのドリンクメニューはメロンジュースです。 そんなイケてる選択肢あるのかよ!と思ってメニューを見ていたら、すぐお隣に運ばれて来たメロンジュースは搾りたてっぽい素敵なビジュアルで、立派なマスクメロンのカットがグラスに引っかかっていた。うらやましい。
そして、エビフライサンドを待っている間に、両隣のミックスサンドも運ばれて来てしまう。白くてフワフワのパンがきれい。具もいろいろでおいしそう。うらやましい。


とぼんやり待っていると来たのがこちら。
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わかっていたのです。これはまずいわけがないと。 エビフライはおいしい。 焼いたパンはおいしい。おいしい+おいしい=おいしい。(繰り返しました。)
でも、この考えをちょっと上回る、喫茶店らしい見事な力加減の、上品さとパワーのある美味しさが、コンパルのエビフライサンドだった。これは、ハッピーな体験だ。


まず、挟まれているのは3本のエビフライ(衣が薄いのにカリカリで最高)とキャベツだけではなくって、薄焼き卵がある。掛布団と敷布団の間の毛布みたいな感じでそっと入っていて、優しい。優しいうえに、ぎゅっとホールドしてくる感じだ。(※寝ている本人はエビフライ。)
それと、味付けは味噌カツ的なこってりしたソースなんだろうと踏んでいたのだけれど、実際は酸味のあるソースとタルタルソースの味付けだった。ケチャップかと思うほどの酸っぱ味が好きだ。実際、食べている間はケチャップだと思って感激しきりだった。
マクドナルドのチーズバーガーだってケチャップがなかったら美味しくないですよ、と思う程度(=軽度)に、ケチャップには思い入れがある。20代でイギリスへ短期留学に行ったとき、寮で出される料理に味がまったくなくて涙していたのだが、留学期間も終盤になって食卓に現れたケチャップがすべてを救ったという経験をしたのだ。味があるぞー!あのとき、ケチャップ・セイブス・ザ・ワールド、と思った。
だいぶ話が逸れたけれど、このソースの酸味がフライのしつこさとぶつかり合って、カロリーゼロになる勢いであった。こういう物言いが流行っていませんか。要は上品さを生んでいるということが言いたかったのですが。
そして、食べている途中で気が付いたのだが、隣のおばあちゃまはサンドイッチを紙ナプキンで包んで召し上がっていた。なるほど。私の手はソースまみれでぐじゃぐじゃ。もういいやと思って、都度舐めたり拭いたりしながら食べる。
自分に上品さは全然ないのだった。

 

2枚のパンにたっぷりのソースとキャベツ、卵、エビフライ3本。3等分にしてあるから、3分の1は残して持ち帰ろうかしら、なんて、食べる前には思ってみたけどそんなのは無駄だった。結局隣のおじさまより先に食べ切ってしまった。ああ美味しかったなあと立ち上がったら、やっぱりしっかりカロリーの分だけ満腹になっていて、今度は誰かと3分の1ずつで食べるのが良いかなあと思った。そして、メロンジュースも飲むんだ。誰か遊びに来ないかなあ。


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