らいむらいと のこと

彼氏のお誕生日がくるので、なにかうまいものを食べて盛り上がりたいと思った。
うまいものを食べるのに理由はなくてもいいが、理由があればますます美味しいし食べ甲斐があるし、「ケ」の外食より値段を張っていいと思えるので積極的にやっていきたい。とわざわざ書いたが、今までもそうしてきたし、むしろそういう家庭に育った。日本全国酒飲み音頭のようなもので、なにかにかこつけて飲み食いしたいと思うのが、食いしん坊の性だと思う。


さてそんな折、「お誕生日はなに食べたい?」と尋ねたところ「うーん、肉かな。」と返事があった。


肉か。


肉と言っても多種多様。ステーキか?焼き肉か?ローストビーフというのも洒落ているな…などなど思い、カルネヤさんかしら、ゆうじかしら、前に会社の先輩に連れて行ってもらった末広町の「生粋」はリーズナブルで楽しかったなあ、などと考えていた。
すると相手が言うのだ、「ハンバーグが良いな」と。


ハンバーグ!(井戸田潤)


肉と言われてそもそもハンバーグのことを思い出さなかった。ハンバーグについて何も知らないぞ。行きたい店のブックマークが700件超もあるのに、ハンバーグの店は1件もない。

どうしよう。
Twitterでつぶやいてみた。


すると数名から実際にDMをいただいたので、その中より検討し始めた。渋谷のゴールドラッシュ、ふむふむ、神保町のアルカサール、ふむふむ。
美味しそう、美味しそうだけど、なんか、想像できちゃうな…(オススメしてくださった方、すみません、いただいた場所は悪くないのです、追って訪問いたします)


と少し悩んで、思い出して検索したワードが「フォーリンデブ ハンバーグ」。

わたしはフォーリンデブ氏をグルメブロガーとして大変信頼している。胃がこの人みたいになりたいと思う。焼き肉のあとにウニ丼を食べるような生活に憧れる。そんな方だから、特にこういうしつこいものについては信頼もひとしおだ。


そこで辿り着いたのが市ヶ谷「らいむらいと」であった。


コースメニューがあってワインも飲めて、バースデーデザートもやってくれる。デートらしくて良いと思って予約した。なにより、ハンバーグは東京で一番と言われたこともあるらしい。万全だ。


コースは前菜から始まり、スープやお魚を経てハンバーグへ辿り着く。
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はじめの一品「ズワイガニイクラのマリネ和風ゼリー」はカニの脚が大盛りなうえにゼリーの出汁味が濃くって力強かった。私がゼリーについて「旨い…ラーメンのスープみたい」と言ったことは内密にしてほしい。


さて、ハンバーグだ。
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「らいむらいと風チーズハンバーグ200g」


ご飯とお吸物のセットにするか、焼きおにぎり入り椀が選べる。
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焼きおにぎり越しに撮ってみた。


これが、このチーズハンバーグが、まあ、驚くほど、驚くほど驚くほど旨かったのである。


「わっ、おいしーい♡」というより「うぉっ、旨い!!!」という味。


大きなハンバーグはしっとりふかふかしている。載せてあるチーズは厚みが1cmくらいあってまったりと主張してくる。そして、ガーリックバターのソース。ソースが一番の肝。これが濃くって旨みの塊。固まってないけど。これだけで若者なら何杯もご飯が食べられるだろう。このソースを余すことなく食べ尽したい…という気持ちに応えるようにマッシュポテトとブロッコリーが添えられている。2つとも、めっちゃソース吸ってくれる。ご親切にありがとうございますと御礼を言いながら吸わせて食べる。予想以上においしくて、楽しくて、小躍りしてしまう。わたしはハンバーグで小躍りしたことが、今まであっただろうか。


「うまいね!」と小さく叫びながらハンバーグをリクエストした本人を見ると、なんと、おしぼりで涙を拭いていた。大丈夫ですか、美味しいですか。


曰く、頷きながら、
「なにかが『美味しい』と思うことはあるけど、それは『ジェットコースターに乗ったら面白い』みたいなものだと思っていた。『美味しい』ことが『幸福』に直結してたことを、俺は今まで知らなかった。初めて経験した。これは、幸せだ。」


よ、よかったね…


その後も「俺は今までハンバーグに対して本気を出してこなかったことに気づいた」「これは絶対に最高のチーズハンバーグ」等々、涙ながらに語りつつ、ソースを掬いきって食べていた。オタクだから好きになったものについての話が長い。(良いことです)


よく考えてみたらそうだ。彼はハンバーグが好きと言いながら、基本はガストのチーズハンバーグかサイゼリヤのイタリアンハンバーグを常食している。お腹がすいたら選ぶ「いつものメニュー」がハンバーグなのだ。実際それらもハンバーグであるには違いない。そしてそれらは美味しくないというわけではない。

最近ちらほら見かける「飲めるハンバーグ」みたいなところにも行ったけれど、それも「いつもの」の流れの中にある、美味しく食欲を満たしてくれるものの派生であったのだろう。

でも、今回の出会いは、「いつもの」を圧倒的に超える味覚の体験だったのだ。そういうものに出会うと、泣いてしまうのかもしれない。

なんか、うん、わかるよ…と思いながら、焼きおにぎりを崩して食べた。美味しかった。


しかし、美味しいものを人に紹介できて喜ばれたときの、この嬉しさは一体なんだろう。

美味しいものを作っていて偉いのはお店なのに、なぜ自分の手柄のように思うのか。しかもご馳走するもんだから、支配欲なのか征服欲なのか、そういう困ったものが満たされてしまう。

そんなことがあるから、ますます行きたいお店のリストが増えていく。 美味しいものは好きな人と食べたい。好奇心と食い意地とドヤ欲と、組み合わさると忙しいのだ。